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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

そこに私は、庭を拵らえております。出るたんびに植木の鉢植を買ってきて、一杯並ぶだけ並べるつもりです。もう大抵一並びは並んでおります。ただみんな木ばかりで、竹籔がほしいと思っとりますと、今晩あの孟宗竹が見付かりました。あれを据えると丁度よくなります。」

「ふーむ。」

私はぼんやり彼の顔を眺めていましたが、そのどこか遅鈍そうな而も澄みきった眼を見ると、彼の気持がだいぶはっきり分ってきました。

「そんなら君、郊外散歩に行くとか、郊外に下宿を探すとかしたらいいじゃないか、鉢植……盆栽なんていうものは、自然を奪われた人間が自然を求めて考え出した一種の芸術なんで……君なんかがそんな風に、やたらに窓の外に植木を並べたってうまくゆくかなあ。」

「いけませんかしら。」と彼は従順に答えました。「だって先生、郊外に行ってもつまりませんよ。桜と埃と、大勢人が騒いでおるばかりですから。田舎ですと今頃は、森や野原から一度に青い芽が出だして、そりゃあ気持よいんです。そんなことを考えて、下宿の室に寝転んどりますと、箱の中につめこまれたような気がします。空気が暖くなってもやもやするばかりで、何にもありません。