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こうでん
香奠
豊島 与志雄
「時流」1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页
」
「そうでしょうか。」と彼は平然として最後に答えました。
「だがまあやってみるさ。」と私は云いました。「僕の云うのが本当か、君の庭が成功するか、一つ賭をしてみようじゃないか。」
「ええ。」と彼は曖昧な返事をして、善良な薄ら笑いを洩しました。
でその話はそのままになって、彼は孟宗竹の大きな鉢植を大事そうに抱えて帰りました。
それから、私は彼の顔を見る毎に、「君の庭はどうだい、」と冗談に尋ねるのが、殆んど口癖のようになりました。彼は何とも答えませんでしたが、妙に陰鬱な影を眉間に漂わせました。
それに早くも気がついて、妻は或る時私に云いました。
「あんまり変なことを仰言ると可哀そうですわ。屹度一人っきりで淋しいんですよ。」
「なあに若い者は大丈夫だ。」と私は答えました。「みててごらん、今に東京が好きでたまらなくなるから。」
そして私は平気でいました。彼も別に何とも云い出しませんでした。がただ一度、何かの話のついでに、憤慨めいたことを妻に洩したそうです。
「先生は故郷を忘れていらっしゃるんです。故郷をちっとも愛していらっしゃらないんです。その証拠には……。」そこで彼は長く考え込んだそうです。