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こうぎょとすいしつ
香魚と水質
佐藤 垢石
「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,955 字 · 8 页
利根川は中部日本では、四季を通じて最も水温の低い川の一つである。五月下旬から六月上旬、若鮎の遡上最も盛んであるという頃に、水温は摂氏の八度から十二度くらいを往復している。
銚子河口や江戸川から冬中、海で育った小鮎が淡水に向かうのは三月下旬から四月中旬へかけて、雪解水が出はじめた頃であるが、人の肌を切るような冷たい水を小鮎は上流へ、上流へと遡っていく。
そして遡りつめたところは、死魔の棲むという谷川岳に近い水上温泉の下流二里ばかりの奥利根川である。この辺は真夏でも日中二十度を超えることが少ない。朝夕、水に浸ればふるえてしまう。それでも鮎は大きく育つ。五、六十匁から八十匁の姿となるが、胴が丸く肉が締まり骨はやわらかである。水が冷えれば冷えるほど、頭と骨がやわらかになる。秋の出水が上流の簗の簀に白泡を立て、注ぎ去れば跡に大きな子持ち鮎が躍っている。その頃は、冷え冷えと流水が足にしむのであるが、鮎の骨は一層やわらかである。秋鮎の骨は、棄てるものではない。
山女魚も、水温の低い渓流に棲んでいるものほど、骨がやわらかである。奥多摩川でも奥利根川でも、暑中水温の割合に高い中流に棲んでいる山女魚を見るが、これは骨が何となく舌に触わるのである。