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うま
馬
佐左木 俊郎
「新潮」1932(昭和7)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页
母親もそう不平がましく呟いた。
「お母あ! 銭なら、まだ残ってるのだぞ。」
伝平はそう言いながら、胴巻きの中から蟇口を取り出して、母親の前へぽんと投げ出した。蟇口の中には、まだ二十何円かの金が残っているのだった。父親も母親も、もう何も言わなかった。
「伝平の野郎には叶わねえ。」
父親は暫くしてから欣びに蠢くような低声で呟いた。
伝平は、老耄の痩馬を、前の柿の木に繋いで置いて、すぐ馬小屋をつくりにかかった。柿の木の下に四角な穴を掘り、近くの山林から盗伐して来た丸太を組み立てて、その周囲には厚い土塀を繞らしたのであった。それには父親も母親も黙々として手伝った。その掘っ立ての馬小屋は、そして、馬小屋であると同時に、そこですぐ堆肥をも採れるようになっていた。
伝平は急に活き活きして来た。娘から母親になった女のように、伝平は、自発的に働くようになって来た。薄暗いうちに起きて飼料を刻んだり、野良へ働きに出ても葛の葉や笹の葉を持って帰るとか、伝平は急に大人びて来た。夜なども、馬のことが気になってろくろく眠れないというような具合で、伝平は、母親がその病児を養うようにして馬の面倒を見ているのだった。