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うま

馬

佐左木 俊郎

「新潮」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页

青空文庫

そして、老耄の痩馬は、次第に肥り出して来た。

「好きな者には叶わねえなあ。」

部落の人達は眼をるようにしてそんなことを言うのだった。

「伝平の野郎は、なんでも、馬小屋さ寝てるって話だぞ。馬を女房にしてるんだってさあ。」

部落にはそんな噂まで立った。

併し、伝平の馬は、翌年の早春、腸を病んで急に死んだ。飼料の用意が十分でなかったところから、生の馬鈴薯を無暗と食わしたので、腹に澱粉の溜まったのが原因だった。伝平は酷く落胆した。彼は失神の状態で、幾日も幾日もぶらぶらと、仕事を休んでいた。どうかすると、両の眼にぎらぎらと涙を溜めて、空間を凝っと視詰めているようなことがあった。

*

徴兵検査で、伝平は、輜重輸卒に合格した。

「馬が好きであります。」

伝平はそう、遂、うっかりと、正直に答えたのであった。

「馬が好きか! ふうん! それはいい。併し、騎兵には少し丈が足りないから、輸卒がいいだろう。」

伝平はそして、三ヵ月間の兵営生活を送って来たのであったが、彼はその三ヵ月の間に、馬に就いての知識をどっさりと仕入れて来た。伝平は、会う人ごとに、馬に就いての話をした。