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うま

馬

佐左木 俊郎

「新潮」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页

青空文庫

そして、馬主の高木は、毎日のように、その馬を見に伝平の家に廻った。伝平が家にいるときには、伝平はいつでも、馬を庭へ牽き出して、を踏まして見せては高木を欣ばして帰した。伝平がいないときには、女房のスゲノが、高木を馬小屋へ案内して、それから縁側で茶を飲まして帰すのであった。

「高木の棘野郎にあ、全く油断も隙もねえなあ。駒馬を貸して置く代わりに、伯楽から、牝馬を奪ってるって話でねえか。伯楽も、一年からなるのに、感付かねえのかなあ。何しろ、伯楽は、馬どなるど、眼がねえからなあ。」

部落にはまたそんな噂が立って来た。伝平は、それほど愚鈍なのではなかったが、馬のためには欺されてやる寛大な善良と狡猾を持っているのだった。併し、噂が次第に激しくなって来ると、伝平の寛大な狡猾は、寛大な善良を乗り越えて行った。

「旦那! 旦那はいるか! 談判があるから出ろ!」

伝平はどうかすると、無理に酔っ払って、高木の家へそんなことを言って行くことがあった。

「南部馬がなんだって言うんだえ? 糞面白くもねえ! 今日は談判があるんだぞ!」

伝平がそう怒鳴りながら門を這入って行くと、高木は座敷の障子を開けて、縁側へ出て来るのが常だった。