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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
と私は一生懸命に制止した。
紳士は微酔い機嫌でよほど興奮しているものと見えて、私のいうことをさらに耳に入れない。行きなり疾走をはじめた二等室を追いかけて飛び乗りをしようとする。私はこの瞬間慥かに紳士の運命を死と認めた。
よし救え! 私は立ちどころに大胆な決心をした。
まさに紳士が走り出した汽車の窓に手をかけようとした刹那、私は紳士のインバネスの上から背後ざまに組みついた。
「な、な、何をするか! 失敬な※ こやつ……」
「お止しなさい、危険です※」
駅長も駆けつけた。
けれどもこの時紳士は男の力をこめて私を振り放したが、かっとして向き返ると私の胸を突き飛ばした。私は突かれるとそのまま仰向けに倒れたので、アッという間もなく、柱の角に後頭部をしたたか打ちつけた。
* * *
仮繃帯の下から生々しい血汐が潤み出して私はいうべからざる苦痛を覚えたが、駅長の出してくれた筧の水をグッと飲み干すとやや元気づいて来た。
汽車はもう遠く去ったけれども、隧道の口にはまだ黒い煙が残っている。見ると紳士の顔にもしたたか泥が付いて、恐ろしい争闘でもした跡のよう、顔は青褪めて、唇には血の気の色もない、俯向いてきまりが悪そうに萎れている。