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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
と、自分ながら自分の心のあさましさに驚かれる。
私は今改めて自白する、私の千代子に対する恋は、ほとんど一年にわたる私の苦悩であった、煩悶であった。
そして私はいままた改めてこの月に誓う、私は千代子に対する恋を捨てて新しい希望に向って、男らしく進まなければならない。ちょうど千代子が私に対するような冷たさを、数限りなき私たちの同輩はこの社会から受けているではないか。私はもう決して高谷千代子のことなんか思わない。
決心につれて涙がこぼれる。立ち尽すと私は初めて荒漠なあたりの光景に驚かされた、かすかな深夜の風が玉蜀黍の枯葉に戦いで、轡虫の声が絶え絶えに、行く秋のあわれをこめて聞えて来る。先刻、目黒の不動の門前を通ったことだけは夢のように覚えているが、今気がついて見ると私は桐ヶ谷から碑文谷に通う広い畑の中に佇んでいる。夜はもう二時を過ぎたろう、寂寞としてまるで絶滅の時を見るようである。
人の髪の毛の焦げるような一種異様な臭気がどこからともなく身に迫って鼻を撲ったと思うと、ぞっとするように物寂しい夜気が骨にまでも沁み渡る。
何だろう、何の臭気だろう。
おお、私はいつの間にか桐ヶ谷の火葬場の裏に立っていたのだ。