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こうだいじ

高台寺

宮本 百合子

「新潮」1927(昭和2)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,503 字 · 14 页

青空文庫

ひろ子は思う壺に嵌りすぎて、おかしいのと照れるのとで、少し赧くなりながら説明した。

「ほら、ね、この人指し指と中指の間から出てる筋、これがずっと一本で通ってないでしょう、初め一寸で一旦切れ――これが十九年前の分よ。それからこうやってまた一寸、また一寸。――御覧なさい、あとは数知れず、じゃないの」

「――浄瑠璃や」

二人は、女将が直ぐは笑いもせず、黒目をよせるような顔をして猶しげしげ自分の掌を見ているので、二重におかしく失笑した。女将は、彼等に身上話をきかせ、その中で、十九年前仲居をしていたとき一人の男を世話され、間もなくその男の児と二人放られて今日まで血の涙の辛苦で一人立ちして来たと、賢女伝を創作した。

「女ほど詰らんもんおへんな、ちょっとええ目させて貰たと思たら十九年の辛棒や。阿呆らし! なんぼ銭くれはってももう御免どす」

然し、それは嘘なのであった。そんな作り話をきかされる柄に見えるかと、彼等は宿へかえる路も笑ったのであった。

女将が階下へ下りかける、階子口ですれ違いに、

「ゲンコツぁん、お居やすか」

「まだ寝んねおしいしまへんのん」

桃龍と里栄が入って来た。