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たかおざんげ
高尾ざんげ
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,252 字 · 21 页
「それから、お銚子をどうぞ。」
事務的な調子で言い捨てて、菊千代は二階へ足早にのぼってゆきました。
檜山と菊千代との仲は、急に深くなってゆきました。スケート・リンクの真中に足がかりが出来たようなものでしたが、それも、あちこちへ滑りだす危険が無くなったというだけのことで、踏んまえた場所がずるずると深く沈んでゆく感じでした。
檜山の親友の山田さんの話では、檜山は少しずつ勉強を始めたようでしたが、まだ全く本気にはなれないでいるとのことでした。菊千代の方では、他のお座敷に出ることがひどくばかばかしくなってきました。それに丁度、預金の支払制限と封鎖、流通紙幣の新旧切替えとなり、杉茂登にも二人名義の不義理が重なってゆきました。檜山は多少の株券を売却し、大切な蔵書にも手をつけかけてる様子でしたが、外泊が度重なるにつれて、妻子のある家庭では紛議がもちあがりかけてるようでした。菊千代の方でも、梶さんの一種の戦死のあとのことゝて、さすがに朋輩間の蔭口も聞き捨てにならぬものがありました。新小松の菊千代といえば、相当に意気と張りとで立ったもう姐さん株でありましたが、その沽券も崩れかけてきたようなひがみ心が、彼女自身のうちに芽を出しかけてきました。