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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

を見上げているぐあい。

下駄をはいた生首――。

あまりの妖異さに、長庵は暫時声を失ったが、やがて、夢中に同じ言葉をわめき立てていた。

「やッ! 殿様が! 殿様がッ――」

九

「何? 大迫の屋敷から仁平が使いに参った? ふウム、急の用と申す。苦しゅうない。庭へ通せ」

書見にでも飽きたか、同じく御書院番の一人で浅香慶之助、三十四、五のちょいとした男ぶりだ。縁側にちかい部屋の敷居ぎわまで出て来て、思い出したように、しきりに爪を切っているところ。

大名小路、雉子ばし御門横、砲筒御蔵の前の浅香の屋敷である。

もう寝に就こうかと思っていると、あわただしく用人がやって来て、もちの木坂の大迫様から仲間仁平が使いに来たというので、早速、すでに閉めた雨戸を一まい開けさせ、その外の庭先へ仁平をつれて来させて会ってみると……。

何者の悪戯か、それとも真の脅迫か。穏かならぬ貼り紙がしてあるという。それにつけて、大迫玄蕃が自分に助護を求めている、と聞いて、剣快の名をほしいままに浅香慶之助、心からおかしそうに、

「大迫も弱うなったナ」

笑った。が、助力を求めて来られた以上、捨てても置けぬ。