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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
剣をとって身がまえにかかると、
「出て来たぞ! 逃げろにげろ! 刃物を持ってるから傍へよっちゃあいけねえ。とても生捕りには出来ねえから、みんな逃げろ、逃げろ……」
捕者役人が刃物に恐れをなして逃げろにげろと叫んでいる。侍の斬込みである。刃物を帯びていることはきまりきっている。何も、逃げるために、今までわざわざ犇と囲んで張り込んでいなくてもよさそうなものと、喬之助はフッとおかしさがこみ上げて来たが、その、しきりに逃げろにげろと呼ばっている声にかれは覚えがあった――。
たしか、壁辰父娘のはなしでは、金山寺屋の音松とかいったが、あの、七草の夜に、下谷の壁辰の家で、自分をこの右近と言いくるめて危いところを助けてくれた大兵の男の声……あの渋い声、あの時の津浪のような笑い声――そうだ。いつかも富士見の馬場へ現れて大岡殿が試乗に来るといって敵を払い、じぶんを助けてくれた……。
今夜は、敵を逃がさぬように、それとなくこの屋敷を包囲していてくれたのではなかろうか。
この、重ねがさねの好意あるしうちに、喬之助が、闇黒の中で声のするほうへしきりに目礼を送っていると、騒動を聞き、乾児をまとめて駈けつけて来た金山寺屋の音松、大岡様に呼びつけられて、それとはなく言いつけられたように、