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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

しっかりおしよ」

「お六坊、暫らくだったなア。こんなところに巣ウ食っていようたあお釈迦さまでも――」

「何を言っているんだよ。捕まらないうちに、麹町とかのお前の穴まで逃亡かろうじゃアないか。わたしも、あんな呑んべえには飽きあきして、先刻もさっき、フッとお前さんのことを思い出して憂鬱になっていたところさ」

ユーウツなんてそんな蒼白いことは言わない。グイとお尻を端折ったお六。長庵とつれ立ってスタスタ、旦那の造酒を置いてきぼりにして逐電する。

暗黒の街路。歩きながらの会話。

「お六、飛んだ道行きだなア」

「あいサ。粋な糸の欲しい幕だけれど、あんまりパッとした着付けじゃアないね」

「しかし、あの、酒を持って顔を出したのがお前だったのに、おいらも愕いたよ」

「あたしこそビックリしたよ――別れて何年になるかしら」

「まア、そんな話は後だ。だが待てよ、どうせあの娘の一件で、神保のほうから脇坂の殿様へ強い掛合いが行くに相違ねえ。こうしてインチキが露れたからにゃア、おいらも安閑としてはいられねえのだ。ナニ、そのほか何やかやと、ちっとばかりヤバい身体だ。こいつア余燼が冷めるまで、当分江戸を売るほうが上分別かも知れねえ」