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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
「何を言やアがる! これお妙、汝ア気でも違ったか」
「気が違っても何でも、この人はわたしの、好い人ですもの。わたしは、さっき一眼見た時から――」
七
裏口に、人影が動いた。それは、何気なく訪れて来たものだったが、何やら内部に、物さわがしい人の動きがあるので、かれは、先刻からそこに、そうやって水口に耳を押し当てて、一伍一什を立ち聴きしていたのだった。
いまその、神尾喬之助に恋ごころを寄せている――というお妙の言葉を聞くと、壁辰も無言、喬之助も無言――不意に落ちたひっそりした空気のなかで、裏の人影は一そう戸に貼りついて、聞耳を立てた。
この殺気の場面に、恋の一こと――それは、降り積む雪に熱湯を注いだも同然で、一瞬、ほのぼのとした煙を上げて、この場の緊張をやわらげ、冷気に一抹のあたたかみを与える効果はあったが、お捕物の最中に、娘の口から、その当のおたずね者への恋の告白を聞こうとは!――壁辰は、悪夢をふるい落とそうとでもするかのように、ブルルと身ぶるいをして、それでも、声は、父一人娘ひとり、その娘のいじらしい打ちあけ言に、犇と情に打たれて低くかすれていた。