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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

壁辰と喬之助は、呆然として立っている。

裏の人影――それは、何時の間にか来ていた筆屋の若旦那幸吉である。彼は、久しい以前から、このお妙を口説きつづけて来たのだが、いまそのお妙がお尋ね者の神尾喬之助を恋している!――と聞くと、かれはさっと身を翻えして、おもて通りへ駈け出たのだった。

どこへ行く気? 御書院番頭脇坂山城守の屋敷へ注進に。

喧嘩渡世

一

市ヶ谷やきもち坂の甲良屋敷だ。

その千代田城御書院番頭脇坂山城守のお上やしき、奥まった書院である。

広い縁の向うに泉水の見える部屋だ。庭いっぱい、黄金いろの液体のような日光が躍って、霜枯れの草の葉が蒼穹の色を映している。池の水面近く、所どころに緋鯉の群があつまっているのが、遠くから、うす桃いろにぼやけて眺められるのだ。

脇坂山城守は、縁端近く脇息をすすめて、客に対座している。山城守は、相撲取りのように肥った人だ。動くと、脇息が重みに耐えてギシと鳴る。顔も、道具立てが大きくて、舞いの面のように見える。その上、表情というものが少しもないのだ。だから、作りつけのようで、長く見ていると誰でも薄気味の悪くなる顔だ。