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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
「越州殿はお人が悪い。こりゃすこし、向後口を戒めると致そう」
この淡路守の相手は、大岡越前守なのである。江戸南町奉行大岡越前守忠相である。老中、若年寄、御小人目附、寺社奉行、勘定奉行、町奉行と来て、これを四十八高という。そのうち、一国一城の主君である大頭株に介在して、身分は単に一旗本に過ぎないのだが、ふだんから一目も二目も置かれて破格の扱いを受けているのがこの大岡越前である。
今の淡路守の言葉には、ふくみ笑いを洩らしたきり笑えなかったが、ちょうど新御番詰所の前の廊下にさしかかって、御番衆が斉しく手を突いて送っているのを見ると、気易な態度でちょっと頭を下げながら、其処を通った。
これが最後で、もう続く跫音がないようだから、戸部近江之介をはじめ池上新六郎、飯能主馬、横地半九郎など畳の目を数えていた一同が、ほっとして身を起して、これからまたそろそろ新役の若侍神尾喬之助をいじめにかかろうとしていると、えへん! えへん! と咳払いの声が、先触れのように廊下を流れて来る。
大目附である。
その咳ばらいを聞くと、御書院番の連中は急に居ずまいを直して、四角くなった。