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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
血みどろな合掌と、銀五郎が最期の声を新たに思いうかべる時――またかかる夜かれの菩提心は、知らず知らずにも一節切の一曲をその霊に手むけさせる。
なおその呂韻に異常な熱を加えてくると、かれの胸底にひそんでいる剣侠的な情感は、笛の孔を破るばかりな覇気をおびてほとばしる。それは悲壮な行進の譜であり、かれの余裕と鬱勃の勇を示すものだ、易水をわたる侠士の歌だ。
そうした山千禽の曲の叫びは、かれの目指す鳴門の海にもひびき剣山の世阿弥が夢にも通うであろう。
その、法月弦之丞の姿は、今、もちの木坂三ツ目の曲り勾配、空谷の桟橋を渡っていた。
竹の歌口へ唇をあてながら、うつむきかげんに歩んでくる、その肩のあたり、裾のあたり、チラチラ影絵の雪のようにかすめて消えるものは、上の梢をこして映る、淡い月影の斑であった。
山をめぐると坂の中腹。
月かげもない両側の崖に、道はやや急な爪先のぼりとなる。
バサリと、時々ころげてくるものは、落椿の音だった。――弦之丞はこの辺から、一節切を笛袋におさめて、ややしばらくの闇を辿る。
と、山犬のように、四、五人――七、八人ずつ――這いつくばった黒い影が……。