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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
あたかも盲が勘をめぐらすように――。
こういう危地に陥ちた場合、かれは必ず数度の息を静かに吸ってかかる。
いかなる兇暴な殺刃でも、冷々として騒がずに、その呼吸の支度をしている間には、容易に、斬ってかかり得ないものだ。
かれに、狐疑と逡巡をいだかせ、その間に、われは心耳心眼を研いで、悔いなき剣の行きどころを決する。
いわゆる、胆まず敵をのむのである。
見えざる敵を見、聞こえざる音を聞き、光なき闇をも瞬間に察しなければならぬ。その思慮なく、おのれの勇を過信して、一人の剣を交わし左右の敵を電瞬に切って捨てたくらいでは、その寸隙に八面の殺刀が、たちどころに一人の相手を蜂の巣と刺激するに足るであろう。
弦之丞が師事し、味得しているところの、戸ヶ崎夕雲の夕雲流なる剣法が、神陰とひとしく、そもそも白虎和尚の禅機から発足していて、剣気と禅妙の味通、生死同風の悟徹の底から生まれているだけに、あざやかなる剣を舞わす派手技よりは、まずもって剣前に、半眼の心をいたすこと夕雲工夫の奥伝とする。
で――今。
もちの木坂に足場をかためて、待ちもうけていた敵の重囲の中核に陥ちつつ、法月弦之丞がことさらに悠々と腰をかけたのもその心。