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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

「なにを騒いでいるのだ」

と枕に顎を乗せたけれど、容易に立ち上がりそうもない。

「意外なやつに出会ったぞ。まアいいから、とにかく起き上がってくれ」

「起きろというのか」

「ぐずぐずしているまには、またとない機会をのがしてしまうことになる」と孫兵衛は、用捨なく二人の夜具をはねのけた。かくてはいかに横着な周馬でも一角でも、安閑と寝てはいられないので、それと一緒に飛び上がって、

「では、会田屋に泊っているやつが、宿をぬけだして行ったのだろう」と、当然そうあるべきことと、思い当るところをいったが、孫兵衛はそれでもないとかぶりを振って、枕元の水挿を取り、

「とにかく、こいつをグーと飲んで、よく眼をさまして貰いたい。その上で話すとしよう」

「ふム? ……」と一角は、やや怪訝な顔をしたが、すすめられるまでもなく、酔ざめのほしかったところなので、それを取って水挿の口から喉を鳴らして飲み干し、周馬にもすすめると、周馬は事態の容易ならぬさまにやや寒さをもよおしたらしく、いらない、とばかり身を硬くしてお十夜の面をジッと見つめている。

「ところで、何だ、お十夜」

「周馬」

「ウム」

「一角」