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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

「来たぞ! いよいよここへ」

と、語尾を強めて言ったのは、すなわち天堂一角だ。

来たとは何者?

かねて期していることではあるらしいが、黒々とむらがり寄っていた人数が、思わず息を内へひそめた瞬間に、ちょうどもちの木坂の下あたりから喨々と夜を澄ましてくる一節切の音のあることが分った。

「ム! とうとうきたな」

麓のほうをのぞみながら、お十夜と一角が、口のうちで強くうなずくと、気早に、下緒を解いて、袖を引っからげた原士の面々も、

「オオ、あの一節切か」

と、険しい目合図を投げ交わしながら、あたりの空気に氷を張らすばかり、シーンとした緊張味をみなぎらせた。

その間にも、次第に近づいてくる竹の音は、一味冷徹な鬼気を流してきて、そこに、鍔ぶるいをひそめる者、柄糸へ唇をつける者などの血汐をいよいよ惣毛立たせ、いよいよ猛くジリジリと沸き騒がせる。

周馬に襟がみをつかまれた上に、二人の原士に両腕をねじ上げられていた万吉は、もう今がすべての最期かと思った。天堂一角と本国との間に、かくも巧妙な連絡がついていては所詮、剣山はおろか、徳島の城下はおろか、鳴門潟の磯を見ることさえ不可能なわけ。