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とびとかきととり
鳶と柿と鶏
豊島 与志雄
「知性」1939(昭和14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页
「李さんじゃないのでしょうか。」
弱々しい声の響だった。吉村は答えなかった。ただ李のことをきくと、急に用が出来て東京へ呼び戻されることになったとかで、昨日の夕方、お別れにちょっと寄ったきりだそうだった。
「まあ、李君が何かに怒って、或は名残りを惜んで、あんなことをしたのだと、しといてはいけませんか。」
君枝はもう興奮もさめて李のことを偲ぶらしく、黙って眼をしばたたいた。
その眼がちょっと涙にうるんでるように見えたのを、吉村は、小説家のばかな癖だと自ら咎めて、空の方へ眼をやった。空には、高く、朝日のなかに、もう鳶が一羽舞っていた。
「そうだ、朝露にひえた柿はひどくおいしいそうだから、ひとつ下さいよ。」
吉村はちょっと君枝のそばを避ける気持で、柿を取りに行った。