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おうがい・あくたがわ・きくちのれきししょうせつ
鴎外・芥川・菊池の歴史小説
宮本 百合子
「古典研究」1940(昭和15)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,337 字 · 24 页
と数万の群集に賞めたたえられつつ、領主の磔柱の上で生涯一度の愉快そうな笑いを笑う。この笑いを作者は、惨酷に甚兵衛を扱いつづけていた継母、異母弟への報復の哄笑として描き出している。義民、英雄というものに向けられて来た、盲目な崇拝の皮を剥いで示そうとしているのである。
「極楽」の退屈さに苦しんで、地獄を語り合うときばかりは蓮の台に居並ぶ老夫婦の眼に輝きが添う姿、「羽衣」をかたに天女を妻とした伯龍が、女の天人性に悩まされて、三ヵ月の契約をこちらから辞そうとしたら「天に偽りなきものを」と居つづけられて、つよい神経衰弱に陥ったという物語は、何と私たちを笑わせ、そこにある一つの実際を肯かせるだろう。
しかしながら、菊池寛のこれらの時代ものを素材としたテーマ小説をよみ終ると、私たちの心にはやがて新たな疑問が擡頭して来ることを否めない。成程、あらゆる人間はあらゆるとき生を欲している。しかしその表現の歴史としての複雑さは、三浦右衛門や俊寛の世界に描きだされているきりの形しかもたないものだろうか。生のそのようなつよい力は、死の形を積極的に変化させる力となって歴史の様々な時代にそれぞれの表現をとるのではないだろうか。