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こうのすにょうぼう
鴻ノ巣女房
矢田 津世子
「文芸」1941(昭和16)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,884 字 · 24 页
普通、服地とか袖口とか裾よけとかになるレース地は、絹物、ジョーゼット、木綿、人絹などいろいろあって、機械にかける前、十ヤールに縫合せる。機械済みのを仕上げのミシン場へまわして、あとは晒しに出す。ぎんは入りたてミシン場で働いた。それから機械場へまわされた。一台に二人、裏と表につくのである。糸の切れ、針の折れを視て歩く。眼玉を皿にして注意する。しょっちゅう片側歩きなので、しぜん肩が凝ってしまう。六台に一人あたり、班長が休みなしに見廻っているのでくさめをするまもない。ぎんものちには班長になり、女では一人っきりの監督にまで上ったけれど、機械に附き添う愉しさは格別であった。
工場にはたった一台、米国から取り寄せたという特製の機械があったけれど、これはぎんでなければ動かせなかった。他の者では機械がいうことをきかないのである。無理をして針に刺されるのが怖さに、誰れも手を出さなかった。これは織目の緻密な総レースをつくり出すのである。仕上り品は主に極上品のカーテン地として売り出された。ぎんは、この機械のことで明け暮れた。どんな小さな埃りでも指のはらで丁寧に払った。