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こうのすにょうぼう
鴻ノ巣女房
矢田 津世子
「文芸」1941(昭和16)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,884 字 · 24 页
自分ほど不幸な男はいない、子供の頃ふた親に死別して、因業な伯父夫婦にこき使われた。女房運が悪くって、最初のには逃げられるし、二度目はそりが合わなくて別れるし、三度目のにはつい先達て死なれてしまったと、眼をうるませ、おろおろ話した。孤児同様な我が身にひきくらべて、ぎんは貰い泣きした。男の唐突な涙もろさ、おろおろした気弱さに、心が動かされるのだった。
そんなことがあってから、ぎんは、つづらの捨吉を特別な優しさでみるようになった。そして休日にはどきどきして媾曳の場所へ急ぐのだった。人出のない郊外へ、男は出たがった。逢うといつもおろおろ声で「僕ほど不幸な男はいない。」と愬え、ぎんを当惑させた。男の涙もろさや気弱さは、ぎんにとっては愛情の誓いになった。
夜に入ってぎんが帰りを気にし出すと、男はびっくりするような剣幕で引き止めた。暗い畑道を歩きながら男に手をまかせ、ぎんは不安と臆病さからしょっちゅうどきどきしていた。その臆病さが身を守って、あやまちもなかった。男は、堅人だと云ってからかった。女のそうした身の堅さに却って掻き立てられ、いよいよ執心した。
工場の中でも評判になって居たたまれず、ぎんは捨吉と港寄りの小林町に家をもつことになった。