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こうのすにょうぼう

鴻ノ巣女房

矢田 津世子

「文芸」1941(昭和16)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,884 字 · 24 页

青空文庫

手紙には子供と二人っきりの佗び暮しだと書いてあったが、工場の友だちからの知らせで、子供の母親も一緒だと分った。

子供からもよく手紙がきた。大きな字で「オバサン」と書き出してあった。ぎんは物足りなく寂しかった。まわらぬ口で「母チャン」と呼んで、涎れの顔をこすりつけてくる俊雄が思い出された。から乳をよろこんで吸うときの、乳房へあてがう小っちゃな手の感触が、悲しいほどの疼きで思い出された。そして「母チャン」と、なんべんも口の中で云ってみるのだった。

俊雄からは手紙のたびにねだりごとだった。ランドセルがこわれてしまったの、東京鉛筆が欲しいの、遠足へ行く小遣いを呉れだのと、ひっきりなしだった。ぎんはわくわくしながら、手紙をよむとすぐに支度をして送ってやった。クレヨンの図画が届くと、会う人ごとに見せびらかした。「わたしンとこの子はね……」と、眉をひらいて、ありったけ自慢した。通いの娘たちは、またおぎんさんの「わしンとこの子」がはじまったと目まぜして、クスクス笑い合うのだった。

クレヨンの図画には汽車と、もう一枚林檎が描いてあった。ぎんはそれを自分の部屋の壁に貼って、朝晩ながめくらした。