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こうのすにょうぼう
鴻ノ巣女房
矢田 津世子
「文芸」1941(昭和16)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,884 字 · 24 页
ぎんには主人の云うことなすことが、みんな尤もだった。そして、この吝嗇な奥様と根っから始末屋の女中はよく気が合って、いよいよ物おしみするのだった。
ぎんの一日は目まぐるしかった。内のことも外のことも一人で取り仕切らなければならない。年寄り夫婦の用事はひっきりなしだったし、店の娘たちの世話もやけた。それに品物の受け渡しや厄介な帳づけの仕事がある。ミシンの請負からあがる利益で主人夫婦はたっぷりと暮し、貯金も出来るというのでほくほくだった。
近所では働き者のぎんのことが評判である。あたりやさんではいい女中を当てたものだと、羨ましがった。あんなに扱き使って八円の給金じゃあ因業すぎると、主人夫婦を悪く云うものもあった。
ぎんはニコニコして働いていた。頬骨の出た釣り眼の長顔なので、黙っているとひどくこわい険のある顔にみえる。これを苦にやんで、始終ニコニコとほぐしていた。娘のころチブスにかかって髪が生えかわってからチリチリの縮れっ毛になってしまった。それをひっつめて、うしろにお団子にしている。右肩が怒っていて、ちっと片輪にみえたが、これはレース工場にいたとき機械の片側調べを長年していたからで、今ではその肩をわざと落して癖づけようとしてもなおらなかった。