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がちょう

鵞鳥

幸田 露伴

「日本評論」1929(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页

青空文庫

」

「そんならどうしたの? 誰か高慢チキな意地悪と喧嘩でもしたの。」

「イイヤ。」

「そんなら……」

「うるさいね。」

「だって……」

「うるさいッ。」

「オヤ、けんどんですネ、人が一生懸命になって訊いてるのに。何でそんなに沈んでいるのです?」

「別に沈んじゃいない。」

「イイエ、沈んでいます。かわいそうに。何でそんなに。」

「かわいそうに、は好かったネ、ハハハハ。」

「人をはぐらかすものじゃありませんよ。ホン気になっているものを。サ、なんで、そんなに……。なんでですよ。」

「ひとりでにカなア。」

「マア! 何も隠さなくったッていいじゃありませんか。どういう入訳なんですか聴かせて下さい。実はコレコレとネ。女だって、わたしあ、あなたの忠臣じゃありませんか。」

忠臣という言葉は少し奇異に用いられたが、この人にしてはごもっともであった。実際この主人の忠臣であるに疑いない。しかし主人の耳にも浄瑠璃なんどに出る忠臣という語に連関して聞えたか、

「話せッて云ったって、隠すのじゃ無いが、おんなわらべの知る事ならずサ。」

浄瑠璃の行われる西の人だったから、主人は偶然に用いた語り物の言葉を用いたのだが、同じく西の人で、これを知っていたところの真率で善良で忠誠な細君はカッとなって瞋った。