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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

と私。

麻川氏は、それきり口をつぐんで仕舞った。眼が薄ぐもりの河の底のように光り、口辺に皮肉な微笑が浮んだ。やがて氏は眼を斜視にして藤棚の一方を見詰めて居たが突然立ち上り手を延ばして藤の葉を二三枚むしり取り、元の処へ坐った。が、いらいらとしていくらか気息を呑み、「僕が、そういう意味でですね、僕がある女を美人と認めるとしても異議無しの筈ですがねあなたは。」私「ある女って誰ですか。」私も咄嗟の場合、詰となった。麻川氏は必死な狡さで「ふふふふ。」と笑った。ふと、私はX夫人の事を思いついた。そして、巧な化粧で変貌したX夫人を先年某料亭で見て変貌以前を知って居る私が眼前のX夫人の美に見惚れ乍ら麻川氏と一緒に単純に讃嘆出来なかった事、その気持ちでその時の麻川氏を批判した随筆を或る雑誌に絶対に氏やX夫人の名前を明記しないで書いたのが、矢張り麻川氏は読んで感付き気持ちに含んで居たのだと判った。「私は、自分の美人観はかなりはっきり持って居ますけれどひと様の好悪はどうでも好いんです。」私は斯う云って何故か悲しくなってうつ向いて仕舞った。何というしつこい氏の神経だ。正午前から、あんなに女中に言伝て、お駒婆さんに菓子を持たせ、部屋へ話しに来るように私を呼び立てたのは、この事を云う為だったのか、もうこのくらいつき合えば、この事を