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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

そういう場合氏の亙りの長い手足は、中年の良妻のような自由性と洗錬を見せて働く。こういう折々、いつも私は思うのであるが、これは氏の天資か、幼時からの都会の良家的「お仕込み」で、習性となって居る氏の動作が、このほか松葉杖つく画家K氏を、まめまめしく面倒見る氏の様子を、何事の美挙ぞと、私は眺めたことも度々あった。主人も好もしそうに微笑して氏にもてなされて居る。両優ふくんだような初対面の挨拶に代って、今や私達は真に打ち融け合った一家族の如き団欒をなす。

某日。――大阪から主人が戻って五六日たった今日の午前十時頃、H屋の門前に一台の古馬車が止った。これは鎌倉でも海岸に遠い場所から海岸へ出る人の為めに備えられている雇い馬車であるらしい。私は確実には知らないが、何処かの貸馬車置場にでも納まっているものらしい。鎌倉の街を歩いて居て曾てこんな馬車に逢わなかったのを見ると、余程特種な計画的な場合の人にのみこれは雇われるものらしい。それを麻川氏の部屋で頼んだものだ。私が、麻川氏の部屋と敢えて書くのは、この頃の麻川氏の部屋は、大川赫子によって殆ど領されて居る形であって最もよく混成された麻川氏と赫子の意志が、麻川氏の部屋の意志と呼んで好いような気さえする。