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わし
鷲
岡本 綺堂
岡本綺堂『鷲』。同一底本的分册已合并为一书。收入:麻畑の一夜、鰻に呪われた男、怪獣、兜、経帷子の秘密、くろん坊、深見夫人の死、雪女、鷲、マレー俳優の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,476 字 · 290 页
妹は黙って俯向いていた。兄も黙って車外をながめていた。
岡山でわたしは例のごとくに弁当を買った。かの兄妹も買った。その以外に、かれらの行動について私の記憶に残っているようなことはなかった。私はきょうも神戸で降りた。兄妹も下車した。かれらはおそらく新橋行きの列車に乗換えたのであろう。その後のことは勿論わたしに判ろう筈もなかった。
その翌年には日露戦争が始まって、わたしの勤めている門司支店は非常に忙がしかった。それが済むと、すばらしい好景気の時代が来た。明治四十年の四月、わたしは社用を帯びて上京して、約三ヵ月ばかりは東京の本社の方に詰めていることになった。
なにしろ久し振りで東京へ帰って来たのである。時は四月の花盛りで、上野には内国勧業博覧会が開かれている。地方からも見物の団体が続々上京する。天下の春はほとんど東京にあつまっているかと思われるような賑わいのなかに、わたしも愉快な日を送っていた。
しかし遊んでばかりはいられない。わたしは毎日一度はかならず出社する以外に、東京にある親戚や先輩や友人をたずねて、平素の無沙汰ほどきをしなければならないので、働くと遊ぶの暇をみて諸方へ顔出しをすることも怠らなかった。