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たそがれのこくはく

黄昏の告白

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,453 字 · 41 页

青空文庫

なぜ彼がかくもあせったか。

大川には有力な競争者が現われたのである。米倉三造の出現がそれであった。

米倉は大川とほとんど同年であった。はじめ大川の盛名に眩惑されていた文壇は、米倉の戯曲をさほどには買わなかった。けれども米倉は隠忍した。我慢した。そうして大川がその絶頂に達したと思われた頃、彼はがぜん奮起した。大川が疲労を見せ始めた頃、米倉は堂々と躍進し始めた。そうして大川があせりにあせってもがきはじめた頃、米倉は完全に文壇の一角を占領した。

世間はうつり気である。

大川の名は忘れられはしなかったけれど、彼の戯曲はこの頃ではただ発表されるにしか過ぎなくなった。しかるに米倉の諸作は、出づるごとに次から次へと脚光を浴びて行った。そうして、大川にとって最も痛ましかったことは、最初彼を文壇に送り出したある大家が、米倉三造を、大川以上のものとして折紙をつけたことであった。

もしこの事実が、大川の元気一杯の時に起ったとしたなら、決して彼は驚かなかったであろう。しかし、ある限りの精力を出し切ってしまった彼が、いま目の前に米倉の異常な、大川のそれにもました出世ぶりを見ていなければならぬということは、たしかに痛ましいことだったにちがいない。