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たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
別れてから、十五年になることを思えば、彼も、もうよい年寄になっている筈である。けれども、おくめの思い出すのは、いつも三十五歳の男盛りともいうべき良人の姿であった。また、その面影に対して動いて行く彼女の心も、果して五十近い婆(ばばあ)の心持ばかりと云えただろうか。娘等に対すと、本能的に長者らしく働く彼女も独りでに懐(おもい)に沈むと、決して老い朽ちぬ苦労人の述懐ばかりではなかった。
「あの女房子も思わない、金使いの荒い男が、どんなに変って来ているだろう。
大阪の方では、いずれ妻子を持っているのだろうが、どんな暮しをしているのか」
おくめは、早速その沢屋という宿屋に出かけて行き、精(くわ)しくその後の模様を訊きただしたいほどの心持がした。彼のお陰で、自分があれからどれほどの苦労をしたか、思いのたけをかき口説いて、済まないと思わせるまで責め抜いても見たい。
「のぶ子が、あんな間際になってから、不意と父親の居場所を明(あか)したのも、若し会ったら、という念があったからではないだろうか」おくめの胸には、何ともいえない顫えが湧き起った。
「若し万一、男も自分同様独りでいて、若い時分のことも気の毒に思い、それとなく子等を仲に立ててまた、新しく縁を戻したいとでも思っていたら……」