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きいろいばん

黄色い晩

小川 未明

「早稲田文學」1909(明治42)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,173 字 · 13 页

青空文庫

私の手は折々戦えた。暗い杉林の下を通り、また桑圃を抜けて、だんだん周蔵の家の近くに来た時按摩は私に向って、

「お堂の前の途は、まだありやすかえ。」と聞いた。

「いや、もう無くなってしまった。」

又按摩は、

「圃になりましたかえ。」と聞いた。

「アア、圃になってしまった。」と私は言った。

按摩は、しばらく黙っていたが、また、

「大けえ榛の木があった筈だが、あれは伐りやしたかえ。」と問うた。

「あの木は去年枯れてしまった。而して今年の春伐ってしまったよ。」と私は答えた。

「あの木は村の鬼門に植っている木で昔からある木でげす……。」と按摩は言った。私は何んだか慄として、

「針を木に打っても快らないか?」と聞くと、

「ハハハハハ。」と、按摩は歯のない口を開けて冷かに笑った。何故笑うのだか私には分らなかった。私はただ黒い箱に目を止めて不思議でならなかった。二人はやっと、周蔵の家の前に来た。私は母でも迎いに来ていはしないかと思って、耳を澄したがそれらしい声も聞えなかった。また周蔵の母親の来ている様子もなかった。家の内は燈火の点いた様子もなく真暗である。もと西隣の行者が住んでいた家は、今も尚お借り手がなくて空家であった。