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くろいろばとしろいやぎ
黒い驢馬と白い山羊
宮本 百合子
「創作時代」1927(昭和2)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,661 字 · 4 页
四辺は非常に静かで虫の音がした。少し風も吹いた。
白山羊は、身震いするように体を動かし、後脚の蹄でトンと月光のこぼれて居る地面を蹴った。黒驢馬は令子の方へ向きかわって、順々に足を折り坐った。
気がつくと、其処とは反対の赤松の裏にも白山羊が出て居る。夜は十二時を過ぎた。
令子は、そっと、動物たちを驚ろかさないように雨戸を鎖した。
朝になったが、萩の葉の裏に水銀のような月の光が残って居る。
令子は海面に砕ける月を見たい心持になって来た。月の光にはいつもほのかな香いがあるが、秋の潮は十六夜の月に高く重吹くに違いない。
令子は興津行の汽車に乗った。
勝浦のトンネルとトンネルの間で、丁度昇りかけようとする月をちらりと見た。鵜原は太平洋のナポリと或人が云ったので、令子はその巖と海との月を心に描いて来たのであった。
鵜原で汽車を降り、宿を駅夫に訊いたら、
「あの巡査さんが途中まで行くから、一緒に行らっしゃい」
左手に黒々と巖山が聳え、駅を出てそこを歩いて居るのは僅か三四人であった。巡査の白服が夜目に著しい。追いついて又宿を訊いたら巡査は当惑して立ち止った。止ったところの左手に真暗なトンネルが入口を見せて居る。