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くろいわるいこうのこと

黒岩涙香のこと

平林 初之輔

「探偵趣味 第二年第一〇号」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,554 字 · 6 页

青空文庫

一

一

黒岩涙香の名をきいて、いちばん先に思い出すのは彼が在命中の『万朝報』である。何というタイプか知らないが、平べったい活字で、トップからボトムまで、ぎっしりつめこんだ四頁の新聞によって、当時の私は、政治問題、社会問題に関するほとんどすべての知識と思想とを養われていたのだった。『万朝報』の下す批判は、私には時事問題を判断する尺度となっていた。

ジャーナリストとしての黒岩涙香は、非常に内容の豊富な、少ない数面に何から何まであまさずつめこんだ、マイクロコスモス〔小宇宙〕ともいうべき独特の新聞をつくることに成功していたと同時に、時には、まるで普通の新聞紙の型を破って、突飛な編集ぶりを示すことによって読者をあっと言わせた。南北朝正潤問題が起こったとき、一頁にわたる大論文を署名してかかげたことなどはその代表的なものである。

政論家としての黒岩涙香は、だいたい進歩思想家として一貫していたように思う。そしてだいたい政府攻撃の立場にたっていたようである。選挙の時など、彼の『万朝報』のスタッフを率いて応援演説に行くと、反対党は、彼の熱弁をおそれて戦慄したということである。