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くろてぐみ
黒手組
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,978 字 · 36 页
それというのが、わしはその時賊に遠慮して懐中電燈を消して了ったのでね。だが、非常に背の高い男だったこと丈けは間違いない。わしはこれで五尺五寸あるのですが、その男はわしよりも二三寸も高かった様です」
「何か云いましたか」
「だんまりですよ。わしの前まで来ると、一方の手にピストルをさしむけながら、もう一方の手をぐっと突出したもんです。で、わしも無言で金の包みを手渡ししました。そして、娘の事を云おうとして、口をききかけると、賊の奴矢庭に人差指を口の前に立てて、底力の籠った声でシッと云うのです。わしは黙ってろという合図だと思って何も云いませんでした」
「それからどうしました」
「それっ限りですよ。賊はピストルをわしの方に向けたまま、後じさりに段々遠ざかって行って林の中に見えなくなって了ったのです。わしは暫く身動きも出来ないで立ちすくんでいましたが、そうしていても際限がないので、後の方を振向いて小声で牧田を呼びました。すると、牧田は繁みからごそごそ出て来て、もう行きましたかとびくびくもので聞くのです」
「牧田さんの隠れていた所からも賊の姿は見えましたか」
「はあ、暗いのと樹が茂っていた為に、姿は見えませんでしたが、何かこう賊の跫音のようなものを聞いたと思いますので」