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くろねことみ
黒猫十三
大倉 燁子
「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,366 字 · 29 页
というのは父親の辰馬増之助氏は人格者だし、国家の功労者でもあるから、――万事穏かにして、なるべく世間にぱッと知れないように、秘密裡に始末をつけてやろうという訳なんだ」
本庄は辰馬が十三を誘惑しかけたと聞いた時から、彼に対する好感を失っていたが、それでもこの案内役を喜んで引受ける気にはなれなかった、と云って、拒絶することは無論出来ない、何と云っても辰馬が悪いんだから仕方があるまいと心で考えていた。彼は××会の首領であるばかりでなく、この無邪気な、美しい十三をさえ毒牙にかけようとしたのだから、――好くないな、辰馬の奴、怪しからん男だ。しかし一体どこで、どういう機会に、彼女と知り合いになったものだろう、誘惑と一口に云っても、それほどの程度だか分らない、と肝心の問題よりもその方が気になった。そこで本庄は何気なく訊き出してみる積りで云った。
「辰馬は、――貴方もご存じなんでしょう?」
「知っていますよ。顔だけはね」と即座に答えた。
「十三子さんも知っていられるのですね?」
「よく知っています。トミーはダンス・ホールで懇意になって――」
「あら、お兄さん。そんな余計な事は云わないだっていいじゃないの」