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くろゆり

黒百合

泉 鏡花

在线阅读泉 鏡花《黒百合(くろゆり)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,148 字 · 154 页

青空文庫

滝太郎は早速に押当てていた唇を指から放すと、薄月にきらりとしたのは、前に勇美子に望まれて、断乎として辞し去った指環である。と見ると糸はぷつりと切れて、足も、膝も遮るものなく、滝太郎の身は前へ出て、見返りもしないで衝と通った。

そのまま総曲輪へ出ようとする時、背後ではわッといって、我がちに遁げ出す跫音。

蜘蛛の子は、糸を切られて、驚いて散々なり。

「貰ったよ。」

滝太郎は左右をし、今度は憚らず、袂から出して、掌に据えたのは、薔薇の薫の蝦茶のリボン、勇美子が下髪を留めていたその飾である。

十

土地の口碑、伝うる処に因れば、総曲輪のかの榎は、稗史が語る、佐々成政がその愛妾、早百合を枝に懸けて惨殺した、三百年の老樹の由。

髪を掴んで釣し下げた女の顔の形をした、ぶらり火というのが、今も小雨の降る夜が更けると、樹の股に懸るというから、縁起を祝う夜商人は忌み憚って、ここへ露店を出しても、榎の下は四方を丸く明けて避ける習慣。

片側の商店の、夥しい、瓦斯、洋燈の灯と、露店のかんてらが薄くちらちらと黄昏の光を放って、水打った跡を、浴衣着、団扇を手にした、手拭を提げた漫歩の人通、行交い、立換って賑かな明い中に、榎の梢は蓬々としてもの寂しく、風が渡る根際に、何者かこれ店を拡げて、薄暗く控えた商人あり。