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ねずみとはとむぎ

鼠と鳩麦

宮本 百合子

「書物展望」書物展望社、1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,253 字 · 5 页

青空文庫

指紋が綺麗に流れていて、その間に小さい島のように一つだけ楕円形に光ったところが残っている。

おや、こんなものが出来たと心付いて眺めた時より、おや消えていると思ったときの方が何だかびっくりした。薬を教えてくれた人にお礼がてら魚の目のことを話したら、

「それは、鳩麦のせいですよ」

とはっきり云われた。では盲腸のしこりも、魚の目のようにとかすのかしら、何だか気味が悪いと笑った。

鳩麦というものだけ買って、戸棚に入れたまま何月か経った。買ったときの私のつもりでは、其れを田舎に暮している私の姑にあたる人に送るつもりだった。まだかっちりと若々しくて、黒い耀いた眼ざしをしているそのひとは、指にたこのようなものがあって、ちゃんとした装などのときは袂のかげにそっちの手を置くようにしているのであった。

ところが鳩麦だけの飲みようが私に分らない。売った店にも判らない。飲みすぎて、どこかが薄くなりでもしたら可怖い。それでつい送らずじまいになっていた。

昨夜、友達が来ているとき、私が座っているうしろの戸棚の中で、盛に鼠が何かをカサコソ云わしている。なんなのだろう。襖をあけた途端、その中につみ重ねてある雑誌類の上を渡って棚の仕切りの間に消えかかっている鼠の尻尾の先が見えた。