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シーせんせいへのてがみ
C先生への手紙
宮本 百合子
「年刊多喜二・百合子研究 第2集」多喜二・百合子研究会編、河出書房、1955(昭和30)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,519 字 · 60 页
私は、アメリカへ来たから斯う成れたのではございません。場所の何処に拠らず、私を総ての掩護から露出させた圏境に依ります。
嘗て知らない苦労にも会いましょうし、光栄も感じます。その種々相を透して、さながら、プリズムの転廻を見るように、種々雑多な人間性が現われて参ります。
その一色をも逃すまいとして、私はどんなに緊張して居りますでしょう。目前に現われて居るのは、本の上に印刷された理論的な文字ではございません。生きて、光線の微分子とともに動いて居ります。だから、一寸でもじっとしては居りません。今出たかと思うともう消えます、同じ物が再現したかと思っても、其の微妙な色彩の何処にか、必ず変化が来て居ります。其が、完く、泣虫寺のおしょうの見たように踊り廻り、とっ組み合い、千変万化の姿態で私の前に現れます。
その一つ一つに、何か不具なところが在るように思われます。この不具は、存在の全部を否定するものではございませんが、兎に角、何か不具なところがある。そして、時々其が激しく油を切らして軋み合います。
その恐ろしい騒音は、地上の何処へ行っても聴えるものではございますまいか。