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ディーざかのさつじんじけん

D坂の殺人事件

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

いずれそのうちに出て来るのだろうと、私はじっと目で待っていたものだ。

だが、女房は却々出て来ない。で、いい加減面倒臭くなって、隣の時計屋へ目を移そうとしている時であった。私はふと店と奥の間との境に閉めてある障子の格子戸がピッシャリ閉るのを見つけた。――その障子は、専門家の方では無窓と称するもので、普通、紙をはるべき中央の部分が、こまかい縦の二重の格子になっていて、それが開閉出来るのだ――ハテ変なこともあるものだ。古本屋などというものは、万引され易い商売だから、仮令店に番をしていなくても、奥に人がいて、障子のすきまなどから、じっと見張っているものなのに、そのすき見の箇所を塞いで了うとはおかしい、寒い時分なら兎も角、九月になったばかりのこんな蒸し暑い晩だのに、第一あの障子が閉切ってあるのから変だ。そんな風に色々考えて見ると、古本屋の奥の間に何事かあり相で、私は目を移す気にはなれなかった。

古本屋の細君といえば、ある時、このカフェのウエトレス達が、妙な噂をしているのを聞いたことがある。何でも、銭湯で出逢うお神さんや娘達の棚卸しの続きらしかったが、「古本屋のお神さんは、あんな綺麗な人だけれど、裸体になると、身体中傷だらけだ、叩かれたり抓られたりした痕に違いないわ。