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ディーざかのさつじんじけん
D坂の殺人事件
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
それは裏側の長屋に間借りしている、ある工業学校の生徒達で、二人共出鱈目を云う様な男とも見えぬが、それにも拘らず、彼等の陳述は、この事件を益々不可解にする様な性質のものだったのである。
検事の質問に対して、彼等は大体左の様に答えた。
「僕は丁度八時頃に、この古本屋の前に立って、そこの台にある雑誌を開いて見ていたのです。すると、奥の方で何だか物音がしたもんですから、ふと目を上げてこの障子の方を見ますと、障子は閉まっていましたけれど、この格子の様になった所が開いてましたので、そのすき間に一人の男の立っているのが見えました。しかし、私が目を上げるのと、その男が、この格子を閉めるのと殆ど同時でしたから、詳しいことは無論分りませんが、でも、帯の工合で男だったことは確かです」
「で、男だったという外に何か気附いた点はありませんか、背恰好とか、着物の柄とか」
「見えたのは腰から下ですから、背恰好は一寸分りませんが、着物は黒いものでした。ひょっとしたら、細い縞か絣であったかも知れませんけれど。私の目には黒無地に見えました」
「僕もこの友達と一緒に本を見ていたんです」ともう一方の学生、「そして、同じ様に物音に気づいて同じ様に格子の閉るのを見ました。