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ディーざかのさつじんじけん
D坂の殺人事件
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
読者は、それらを、この日、彼と私との間に取交された会話によって、十分察することが出来るであろう。
それまで、明智とはカフェで顔を合していたばかりで、宿を訪ねるのは、その時が始めてだったけれど、予て所を聞いていたので、探すのに骨は折れなかった。私は、それらしい煙草屋の店先に立って、お上さんに、明智がいるかどうかを尋ねた。
「エエ、いらっしゃいます。一寸御待ち下さい、今お呼びしますから」
彼女はそういって、店先から見えている階段の上り口まで行って、大声に明智を呼んだ。彼はこの家の二階を間借りしているのだ。すると、
「オー」
と変な返事をして、明智はミシミシと階段を下りて来たが、私を発見すると、驚いた顔をして「ヤー、御上りなさい」といった。私は彼の後に従って二階へ上った。ところが、何気なく、彼の部屋へ一歩足を踏み込んだ時、私はアッと魂消てしまった。部屋の様子が余りにも異様だったからだ。明智が変り者だということを知らぬではなかったけれど、これは又変り過ぎていた。
何のことはない、四畳半の座敷が書物で埋まっているのだ。真中の所に少し畳が見える丈けで、あとは本の山だ、四方の壁や襖に沿って、下の方は殆ど部屋一杯に、上の方程幅が狭くなって、天井の近くまで、四方から書物の土手が迫っているのだ。