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ディーざかのさつじんじけん

D坂の殺人事件

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

手掛りを消して了ってはいけないから」

彼はこう命令的に云い残して、半町許りの所にある自動電話へ飛んで行った。

平常から、犯罪だ探偵だと、議論丈は却々一人前にやってのける私だが、さて実際に打っつかったのは初めてだ。手のつけ様がない。私は、ただ、まじまじと部屋の様子を眺めている外はなかった。

部屋は一間切りの六畳で、奥の方は、右一間は幅の狭い縁側をへだてて、二坪許りの庭と便所があり、庭の向うは板塀になっている。――夏のことで、開けぱなしだから、すっかり、見通しなのだ、――左半間は開き戸で、その奥に二畳敷程の板の間があり裏口に接して狭い流し場が見え、そこの腰高障子は閉っている。向って右側は、四枚の襖が閉っていて、中は二階への階段と物入場になっているらしい。ごくありふれた安長屋の間取だ。

死骸は、左側の壁寄りに、店の間の方を頭にして倒れている。私は、なるべく兇行当時の模様を乱すまいとして、一つは気味も悪かったので、死骸の側へ近寄らない様にしていた。でも、狭い部屋のことであり、見まいとしても、自然その方に目が行くのだ。女は荒い中形模様の湯衣を着て、殆ど仰向きに倒れている。