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ヒューマン ロスト

HUMAN LOST

太宰 治

「新潮」1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,769 字 · 24 页

青空文庫

わが一夜の行為、うたがわしくば、君、みずから行きて問え。私は、住所も名前も、いつわりしことなし。恥ずべきこととも思わねば。

私は享楽のために、一本の注射打ちたることなし。心身ともにへたばって、なお、家の鞭の音を背後に聞き、ふるいたちて、強精ざい、すなわち用いて、愚妻よ、われ、どのような苦労の仕事し了せたか、おまえにはわからなかった。食わぬ、しし、食ったふりして、しし食ったむくいを受ける。

その人と、面とむかって言えないことは、かげでも言うな。私は、この律法を守って、脳病院にぶちこまれた。求めもせぬに、私に、とめどなき告白したる十数人の男女、三つき経ちて、必ず私を悪しざまに、それも陰口、言いちらした。いままでお世辞たらたら、厠に立ちし後姿見えずなるやいな、ちえっ! と悪魔の嘲笑。私は、この鬼を、殴り殺した。

私の辞書に軽視の文字なかった。

作品のかげの、私の固き戒律、知るや君。否、その激しさの、高さの、ほどを!

私は、私の作品の中の人物に、なり切ったほうがむしろ、よかった。ぐうだらの漁色家。

私は、「おめん!」のかけごえのみ盛大の、里見、島崎などの姓名によりて代表せられる老作家たちの剣術先生的硬直を避けた。