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ヒューマン ロスト

HUMAN LOST

太宰 治

「新潮」1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,769 字 · 24 页

青空文庫

狂乱であり、憤怒である。更に、(断)

寝間の窓から、羅馬の燃上を凝視して、ネロは、黙した。一切の表情の放棄である。美妓の巧笑に接して、だまっていた。緑酒を捧持されて、ぼんやりしていた。かのアルプス山頂、旗焼くけむりの陰なる大敗将の沈黙を思うよ。

一噛の歯には、一噛の歯を。一杯のミルクには、一杯のミルク。(誰のせいでもない。)

「なんじを訴うる者とともに途に在るうちに、早く和解せよ。恐くは、訴うる者なんじを審判人にわたし、審判人は下役にわたし、遂になんじは獄に入れられん。

誠に、なんじに告ぐ、一厘も残りなく償わずば、其処をいずること能わじ。」(マタイ五の二十五、六。)

晩秋騒夜、われ完璧の敗北を自覚した。

一銭を笑い、一銭に殴られたにすぎぬ。

私の瞳は、汚れてなかった。

享楽のための注射、一本、求めなかった。おめん! の声のみ盛大の二、三の剣術先生を避けたにすぎぬ。「水の火よりも勁きを知れ。キリストの嫋々の威厳をこそ学べ。」

他は、なし。

天機は、もらすべからず。

(四日、亡父命日。)

五日。

逢うことの、いま、いつとせ、早かりせば、など。