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ヒューマン ロスト

HUMAN LOST

太宰 治

「新潮」1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,769 字 · 24 页

青空文庫

君は、いったい、誰の嫁さんなんだい。武士の妻。よしやがれ! ただ、T家よりの銅銭の仕送りに小心よくよく、或いは左、或いは右。真実、なんの権威もない。信じないのか、妻の特権を。

含羞は、誰でも心得ています。けれども、一切に眼をつぶって、ひと思いに飛び込むところに真実の行為があるのです。できぬとならば、「薄情。」受けよ、これこそは君の冠。

人、おのおの天職あり。十坪の庭にトマトを植え、ちくわを食いて、洗濯に専念するも、これ天職、われとわがはらわたを破り、わが袖、炎々の焔あげつつあるも、われは嵐にさからって、王者、肩そびやかしてすすまなければならぬ、さだめを負うて生れた。大礼服着たる衣紋竹、すでに枯木、刺さば、あ、と一声の叫びも無く、そのままに、かさと倒れ、失せむ。空なる花。ゆるせよ、私はすすまなければいけないのだ。母の胸ひからびて、われを抱き入れることなし。上へ、上へ、と逃れゆくこそ、われのさだめ。断絶、この苦、君にはわからぬ。

投げ捨てよ、私を。とわに遠のけ! 「テニスコートがあって、看護婦さんとあそんで、ゆっくり御静養できますわよ。」と悪婆の囁き。