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あとがき(『モスクワいんしょうき』)

あとがき(『モスクワ印象記』)

宮本 百合子

「モスクワ印象記」東京民報出版社、1949(昭和24)年5月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,361 字 · 3 页

青空文庫

今日の日本には自分たちの眼でソヴェト同盟をみてきた人が大勢いる。捕虜として各地でキャンプ生活をしながら生産労働に従ってきたひとびとの見聞は、その特別な事情から受ける制約があって、いた場所によって、収容所長の性格によって、まちまちな経験がされている。同時に日本の大衆が人民的な民主主義の道を歩きはじめて、中国や北朝鮮のひとびとの現実の建設を眼近にみるにつれ、遠い一つの社会主義的実験国のように思われていたソヴェト同盟の生き方が、案外にも日本のわたしたちの日常につらなったものであることが実感されはじめてきている。ところが今日のわたしたちの一方の耳からは絶えずソヴェトに対する中傷や事実の不明な流説がつぎこまれるためにソヴェト社会の実際をありのままに知りたいという気持は一層切実な要求となっている。

ふたむかし前のモスクワといえば地下鉄さえなかった。ナチスが侵略して来たとき、雄々しく闘って、世界の民主主義と自分たちの社会を守った青年や少女はやっと生れたばかりであったろう。五ヵ年計画はその第一次が完成したところで、わたしの紹介も終っている。わたしのみたモスクワは、そしてレーニングラードは、昔ばなしの中の都となっている。