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あとがき(『ふたつのにわ』)

あとがき(『二つの庭』)

宮本 百合子

「二つの庭」新潮文庫、新潮社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,990 字 · 5 页

青空文庫

で、伸子は、まだそのような個人的善意の社会的行動に自分をゆだねてはいないのである。伸子は組織について無知であり、社会主義的な集団にも属していない。

「伸子」はやがて「二つの庭」からも出る。「道標」の根気づよい時期は、伸子が、新しい社会の方法とふるい社会の方法との間に、おどろくばかりのちがいを発見した時であり、伸子の欲望や感情も手きびしい嵐にふきさらされる。

はじめ、ただ一本の線の上に奏せられていたアリアのような「伸子」の物語は、こうして、「二つの庭」においては、小さなクヮルテット(四重奏)となり、やがて「道標」では、コンチェルト(協奏曲)にかわってゆく。

そして、「伸子」がそう変ってゆくことこそ現代のすべての人々の善意にとっての自然ではないだろうか。こんにちの社会で、理性ある平和を愛し、人間の尊重と発展とを願うひとは、ヒューマニティの課題として自身の幸福への欲求をも自覚しずにいられないのだから。

そこにこそ、このひとつらなりの長篇に力を傾ける作者の歓喜と信頼がかくされている。「二つの庭」は、人間の善意が、次第に個人環境のはにかみと孤立と自己撞着から解きはなされて現代史のプログラムに近づいてゆく、その発端の物語としてあらわれる。