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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいろっかん)
あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第六巻」安芸書房、1948(昭和23)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,063 字 · 9 页
足かけ三年作者はひたすら「伸子」に没頭した。人間らしい生活の多様さや発展、生きている甲斐が感じられるような人生をもとめて結婚した一人の若い女が、あいてと自分との結婚生活の現実に見出したものは、無目的で、エゴイスティックな理想のない日々の平安への希望だけであった。流れ動き生成する男女の結合こそ愛とよばれるべきものだと信じている一人の生活的な女にとって、当時の日本の通念であった家庭の平和の観念や、夫婦愛家庭愛における女の無主張の立場は恐怖を与えた。結婚にからむ親たちとの相剋も非条理に思えた。二十歳の女の人生をその習慣や偏見のために封鎖しがちな中流的環境から脱出するつもりで行った結婚から、伸子は再度の脱出をしなければならなかった。世間のしきたりから云えば十分にわがままに暮しているはずの伸子がなぜその上そのように身もだえし、泣き、そこは自分の生きられるところでないと苦しむのか、ほとんど諒解に苦しんでいるあいてを伸子として避けられない容赦なさで傷けながら、その人をそのように苦しめているという意識で自分もますます逆上しながら。――
作者は、この社会に階級の存在するという事実や、自分が生れてそこに育った中産階級というものの歴史的な本質について当時は知っていなかった。